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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)254号 判決 1966年4月30日

控訴人(附帯被控訴人) 保津川遊船株式会社

被控訴人(附帯控訴人) 大阪市信用金庫

主文

一、控訴人の本件控訴を棄却する。

二、被控訴人の附帯控訴に基き原判決を取消す。

三、控訴人は被控訴人に対し金三〇万円及びこれに対する昭和三四年七月一一日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

五、本判決は主文第三項につき被控訴人において金一〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人と略称する。)代理人は控訴につき「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び被控訴人の附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人と略称する。)代理人は控訴につき主文第一項同旨の判決並びに附帯控訴として原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す旨及び主文第二、三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は左に記載するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人の主張

一、被控訴人の第一次請求について、原判決事実摘示第二の一の(三)(四)(五)の主張の順序を(四)(五)(三)の順に改める。

二、同第二次請求につき、会社の取締役は会社との間に実質上選任監督の関係があるから民法七一五条一項の「被用者」に該当する。又同条に所謂「第三者」は取引の安全のためその相手方を保護しようとする民法一一〇条の場合と異なり、加害行為の直接の相手方に限定されるものではない。

控訴人の主張

一、服部保夫が本件手形を振出した当時、控訴会社の代表取締役の印章は右代表取締役川本直水の義弟である市場博が控訴会社経理課長として保管していたのであって、この点の従前の主張は訂正する。服部は右保管にかかる印章を無断使用して本件手形を作成したものである。又本件手形の金額欄の肩書には服部の印章が押捺され、服部はこの種印章のある手形は控訴会社の預金口座から決済しないよう予め支払場所である金融機関に連絡していたのであって、本件手形が控訴会社のためでなく服部自身のために振出されたことはこのことからも明らかである。

二、仮に本件につき商法二六二条の適用があるとしても、同条に所謂「第三者」は民法一一〇条の場合と同様当該行為の直接の相手方に限られるところ、本件手形の受取人である池田繁一は右手形が控訴会社常務取締役服部保夫でなく控訴会社取締役社長川本直水名義で、しかも控訴会社の目的以外の使途のために振出されることを承知しながら、川本に服部の権限の有無を確めることもしていないこと等からして、服部の代表権の欠缺について悪意又は重過失があったものというべく、かかる過失がある場合にも同条による池田の権利取得は否定さるべきである

三、民法七一五条一項の「第三者」も前同様加害行為の直接の相手方のみを指すものである。特に手形につき偽造振出行為とその手形の第三取得者である被裏書人が右手形取得のため裏書人に支払った対価たる損害との間に因果関係が存続するとしても、被偽造者である使用者がこれら第三取得者にまで損害賠償責任があるとすることは実質上第三取得者に損害賠償請求権という名で被偽造者に対する手形上の権利が発生していることになって、結局偽造振出行為が有効な振出行為に転じてしまうような結果になるばかりでなく、他方偽造手形でもこれに裏書した者は裏書人としての手形上の責任を負担すること等を考えると、上記限定は相当というべきである。証拠<以下省略>。

理由

本件手形に被控訴人主張のような記載のあることは当事者間に争がなく、被控訴人が現に右手形を所持していることは弁論全趣旨から明らかである。

被控訴人はまず本件手形は控訴会社代表取締役川本直水又はその委任によって服部保夫が振出した旨主張するのに対し、控訴人はこれを争い右手形は服部の偽造にかかるものであると主張するので、まず本件手形振出の事情から右各主張の当否について検討するに、この点の当裁判所の認定は次に付加するほか、原判決一一枚目表一行目から同一二枚目裏七行目までと同一であるから、これを引用する。<省略>

<省略>従って前掲被控訴人控訴人の主張はいずれも採用し難く、本件手形は服部が自己の有する手形振出権限を越えて控訴会社代表取締役の記名押印を代理して振出したものというべきである。

そこで進んで被控訴人の商法二六二条の主張について考えるに、常務取締役等会社を代表する権限を有するものと認められる名称を与えられている所謂表見代表取締役が直接代表権を有する代表取締役の記名押印をして会社名義の約束手形を振出した場合においても、手形受取人が右表見代表取締役の代表権の欠缺につき善意であるときは、同代表取締役が自己の氏名を直接手形面上に表示した場合と同様会社は手形金支払の責を負うものと解すべきところ(昭和四〇年四月九日最高裁判決参照)、本件手形は既述の如く控訴会社から常務取締役の名称を与えられている代表権のない取締役服部が手形面上に直接代表取締役川本直水の記名押印をして池田繁一に振出し交付したものであって、その際池田が控訴会社に服部のほか川本直水が取締役社長として現在することを知っていたことは前掲手形の記載及び池田繁一の証言から認められるけれども、社長の名称を有する者が必ずしも会社の代表取締役とは限らず又代表取締役が数人あることも稀ではないから、このようなことからすぐに池田が服部の代表権欠缺につき悪意であったと即断することはできず、又池田が本件手形のほか相当数の且つ金額欄の肩書に服部の印章のある手形をそれぞれ叙上神社の事業資金調達のためにすることを知って交付をうけたことも、手形に取扱担当者の印を別に押すことは普通よくあることで又観光を主な目的とする控訴会社と前記神社の復興もしかく無縁のものともいい難いふしがあるから、右事実から直ちに池田が服部に控訴会社を代表する権限ひいてこれを手形の振出権限のないことを知って該手形を取得したとすることもできず、その他控訴人の提出援用する全証拠によってもいまだ池田に以上悪意の存在を認めるには足らない。むしろ却って池田は本件手形取得にあたりそれまでの服部の言動等から服部が控訴会社の常務取締役であり同取締役として控訴会社を代表しその業務を執行しているものと信じていたことが前掲証人池田繁一、服部保夫の各証言から窺われるのであってたとえこのように信ずるについて過失があったとしても、商法二六二条は外観に信頼した第三者の保護を目的とするもので相手方の善意につき過失の有無を問わないものと解するのが相当であるから、結局この点の被控訴人の主張は理由があるものといわねばならない。

そうすると控訴会社は池田から裏書により本件手形上の権利を取得した被控訴人に対し被控訴人がその取得当時服部に手形振出権限がなかったことを知っていたと否とに拘らず右手形金支払の義務があるものというべく、又被控訴人が同手形を期日に支払場所に呈示してその支払を求めこれを拒絶されたことは前掲手形の記載から明らかである。

以上の次第で被控訴人の本件手形金の請求は爾余の争点の判断をするまでもなく正当であるから本件控訴は棄却を免れず右第一次請求を排斥し不法行為を原因とする予備的請求を認容した原判決は失当で附帯控訴の理由があるので原判決を取消すこととし、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言につき民訴法八九条、九六条、一九六条を適用して主文のとおり判決する<以下省略>。

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